IROMANレースに完走するためのバイク&ランの練習・トレーニング完全ガイド

IRONMAN完走のための練習プラン(基本編)

オリンピックディスタンスならラン中心、IRONMANならランとバイク両方を練習するのが効果的 26年間の研究で明らかに

ブラジル Rio Grande do Sul大学の研究チームは、トライアスロントップレベルのアスリートの練習量を分析した結果、オリンピックディスタンスのアスリートなら、ランを練習の中心に置き、IRONMANアスリートの場合、ランとバイク両方を練習する必要があるという研究結果を発表した。

同チームは、トップ50位以内に入るトライアスリート(オリンピックディスタンスとIRONMANディスタンス)について、26年分のスイム・バイク・ランの練習配分の推移を分析した。

同研究によると、オリンピックディスタンスとIRONMANディスタンスの選手ともに、26年間の推移を観察すると、スイムの練習量は減少傾向にあった。オリンピックディスタンスの上位アスリートにおいては、スイムの練習量が減った一方で、ランの練習量は増加していた。IRONMANディスタンスにおいては、スイムの練習量が減少した一方で、バイクとランともに練習量が増加していた。

参考資料: Changes in Contributions of Swimming, Cycling, and Running Performances on Overall Triathlon Performance Over a 26-Year Period
Photo: mediaphotos / iStock

IRONMANレースでは、「ゆとりのあるペースでたくさん練習することが好タイムにつながる」という研究結果

IRONMANレースのように長時間に動き続けるレースでは、実際のレースよりもゆとりのあるペース(最大心拍の70%程度)で練習することが好タイムにつながるという。

スペイン アトランティコ大学の研究チームは、IRONMANレースのエイジグループアスリート13名に対し、約5ヶ月間の練習を通じて実験を行った。

その結果、レースよりも遅めのペースで多く練習したほうが、IRONMANレース本番におけるパフォーマンスが向上したことが明らかとなった。「遅めのペース」の練習については、Anaerobic Threshold(AeT)と呼ばれるペースと同じ、もしくは下回るペースが好ましい。AeT値の算出方法については、いくつかの方法がある。たとえばhe Triathlete’s Training Bibleの著者であるJoe Friel氏のブログによると、「最大心拍の70%をAeT値として設定できる」とのことである。

参考資料:
Training-intensity distribution during an ironman season: relationship with competition performance.

IRONMANレースは平均週6時間の練習で完走できる(ただし、8ヶ月間続けることと、ロングライドも必要)

IRONMANの完走を目指すには、週6時間の練習で十分であること示す実験データが発表された。

これは、自身もトライアスリートであり、コーチとしても活動しているロシア人のSuren Arutyunyan氏が、2017年6月28-29日に開催されたJournal of Science and Cyclingで発表したもの。

同氏によると、エイジグルーパーのアスリートがIRONMANの完走を目指すには、約8ヶ月間、平均して週6時間、年間換算で約300時間の練習を行うだけで十分だという。

同氏のプロジェクトは、異なるエイジグループのIRONMAN未経験アスリート4名に対して、8ヶ月間トレーニングを実施。基本的なメニューとして、週に一度の筋トレ、週に一度のインターバルトレーニングを含む、週に5日のトレーニングを行わせた。また、8ヶ月間に1度だけ12〜20kmのラン、1度だけ60-120kmのバイクにも取り組ませた。スイムについては、優先度は比較的に低く、距離や練習時間を重視せずにテクニックを磨くことだけに集中させたという。トレーニングプランとしては、3週間を1サイクルとしてメニューをレイアウトした。

その結果、4名全員が IRONMAN Copenhagen 2016に完走し、うち2名は全アスリート上位15%以内に入り、もっとも速い人は10時間を切ったという。

これにより、練習は週6時間程度で構わないこと、限られた時間でトレーニング効果を高めるためには、適切なメニューが必要であることも明らかとなった。

IRONMANレース出場者の月間平均練習量

IRONMANレース出場者の平均練習量(月間)は、スイム35.2km、バイク1080km、ラン232.8kmであることが判明した。また、その日によって取り組む競技と距離は大きく変わるが、1日あたりに換算すると、スイム1.1km、バイク38 km、ラン8.3kmが目安となることが分かった。

オーストラリア グリフィス大学のJ.P.Gulbin博士らは、1995年のIRONMAN Lanzarote参加者242名(平均完走タイム12時間)を対象に、レース前の練習量について調査した。
その結果、IRONMANに完走するための準備期間は21.5週間(約5ヶ月間)、一週間あたりの練習量は、スイム8.8km(1分48秒/100mペース)、バイク270km(31.8km/hペース)、ラン58.2km(4分55秒/kmペース)が平均値となることがわかった。
また、1985年IRONMAN Canadaの参加者203名を対象に、同様の調査を行ったところ、一週間あたりの練習量は、スイム9.9km、バイク270km、ラン58kmだった。

1985年IRONMAN Canada参加者平均距離(週間)
※アンケート回答者数242名
スイム 9.9km
バイク 290km
ラン 57km

1995年IRONMAN Lanzarote参加者の平均練習量(週間)
※アンケート回答者203名
スイム 8.8km±4.3(1分48秒/100mペース)
バイク 270km±107(31.8km/hペース)
ラン 58.2km±21.9(4分55秒/kmペース)

平均練習量(1日あたり)
※1995年IRONMAN Lanzaroteのデータを参考
スイム 1.1km
バイク 38 km
ラン 8.3km

平均練習量(1か月あたり)
※1995年IRONMAN Lanzaroteのデータを参考
スイム 35.2km
バイク 1080km
ラン 232.8km

参考文献: Ultraendurance triathlon participation: typical race preparation of lower level triathletes

IRONMAN世界選手大会出場者の練習量

IRONMAN世界選手大会出場者は、一週間あたりスイム11.5〜12.5km、 バイク363〜370km、ラン68〜72kmの練習をこなしていることがわかった。

オーストラリア グリフィス大学のJ.P.Gulbin博士らは、1985年〜1991年にかけてIRONMAN世界選手権の出場権を獲得したアスリート353名に対して調査を実施。1995年のIRONMAN Lanzarote参加者242名(平均完走タイム12時間)の一週間あたりの練習量(スイム8.8km、バイク270km、ラン58.2km)と比較した。

その結果、IRONMAN世界選手大会出場者は、一般のIRONMAN参加者よりもバイクとランの練習量が多いことがわかった。

1985〜1988年IRONMAN世界選手権参加者の練習量(週間)
※アンケート回答者数323名
スイム 11.5km
バイク 363km
ラン 72km

インドアトレーニング

プロフェッショナルIRONMANアスリートLionel Sandersがインドアトレーニングに没頭する理由とは?

2017年のIRONMAN世界選手権で準優勝したLionel Sanders選手。トライスロンに関するノウハウ動画を配信しているGlobal Triathlon Networkは、インドアトレーニングを実施していることでも有名な同氏に対してインタビューを実施しました。

このインタビューにおいて、同氏は、インドアトレーニングであればいつでも開始できることに加え、交通事情や天候に左右されないために集中でき、質の高い内容になりやすいと語っています。

日本には自転車専用道路は多くはないため、トレーニングのためのバイク走行も、車や歩行者などに配慮する必要があります。限られた時間を安全かつ効率的にトレーニングするには、インドアトレーニングも選択肢の一つに考えてもいいかもしれません。

体重・体脂肪

体脂肪率が低い男性はIRONMANレースで速くゴールできる傾向

男性は、体脂肪率が低いほうが、IRONMANレースでより速くゴールできる傾向がみられる一方で、女性の場合は、体脂肪率とIRONMANレースでのパフォーマンスに大きな相関関係はなく、あくまでも練習量が大きく影響するということがわかった。

スイス ザンクト・ガレン健康センターの研究チームは、2007年IのRONMAN Switzerlandレース完走者(男性27名、女性16名)を対象に、レース前の体脂肪率、過去のIRONMANレースの完走実績、レース前の3ヶ月間の練習量について分析した。

調査の結果、男性の場合、体脂肪率(実験対象者の平均体脂肪率は14.4%)が低いほど、速いタイムでゴールする傾向があることが判明。タイムの速さには、レース前の練習量よりも、体脂肪率との相関関係が高いとみられている。

一方、女性の場合は、レース前の練習量が多いほど、IRONMANレースで速いタイムでゴールする傾向があるとわかった。ただし、男性とは違い、体脂肪率の低さとゴールタイムに相関関係はなかった。

また、同研究チームによると、男女に共通していることとして、本番のIRONMANレースの完走回数を挙げており、過去の本番レースへの参加数が多いほど、タイムの向上に大きな影響を及ぼしたという。なお、練習内容についても分析したところ、スピードトレーニングはIRONMANのタイム向上に大きな影響を及ぼさないことも明らかとなった。

参考文献: Personal Best Time, Percent Body Fat, and Training Are Differently Associated With Race Time for Male and Female Ironman Triathletes